DV問題は、実は人間回復のプロセスになるかもしれない。誰にでもできることがあるはず。

Vol.1 鎌仲ひとみ(映画監督)

ドキュメンタリー映画監督の鎌仲ひとみさん

『六ヶ所村ラプソディー』で描いたのは、放射能汚染の加害者も被害者も一体化していて、そこに境界線はないということ。それを私たちが変えていく──という希望はあるのか、というテーマですね。六ヶ所村の人たちはほとんど核燃から収入を得て生活をしている。「私1人がなにかやっても変わるわけでもないし」というんです。でもだからといって、電気が、原発が、放射能すべてよしとするわけにはいかない。それをとらえて「コイツが悪いのだ」といってしまえば、自分はすごく正しくて、安心できるのだけれども、でも私たちがその問題を変えていこうと思うのであれば、それは解決にはならないのではないか。

──ドキュメンタリー映画監督の鎌仲ひとみさんに、お話をうかがった。いま、全国で上映会が開催されている『ミツバチの羽音と地球の回転』で話題の鎌仲さんは、硬質で深刻な問題を、そこに生きる人々の日常の表情の中から浮かび上がらせていく豊かな表現力で、それまで遠い存在だったテーマを身近な問題意識へと置き換えてくれる映像の語り部だ。そんな鎌仲さんに、現代社会に潜んでいるDV問題について私たちパープルアイズが思うところを、ぶつけてみた。

──映画の中で登場人物がで「なにも意見をいわないのは賛成しているのと同じ」と発言されていますが、実はそのコンセプトは、私たちパープルアイズの目指すところと同じだと思うんです。DVに関しても、世間では圧倒的にその実態を知らない人が多いんですね。でもいま、既婚女性の3人に1人がDV被害にあっている──という統計があるんです。

新聞の4コマ漫画があるでしょ? あの家族の光景の中で、奥さんがズボラで、ダンナのご飯や弁当を作らないとか、そんなシーンは山のように出てくるけど、でもダンナが奥さんに手を上げるシーンはいちども出てこない。すごく多くの人に読まれている、それだけ一般化した漫画の中に、いつも男と女のカップルが出てくるんだけど、連載100回のうちに1回くらい、ダンナがつい手を上げてパシーンと「ああ、やってしまった……」というのは──まあ全然ないよね。つまり、それを見てる人たちの固定したイメージが、日本ってダンナが尻に敷かれてて……ってことなんだと思う。それなのに、妻の3人に1人が夫から暴力を振るわれた体験があるとしたら──そして世間がそれを知らないままでいるとしたら──パブリックイメージがその印象を払拭してしまっているから、それが見えないんだと思いますね。

──そこでパープルアイズとしては、無関心層を少しでも関心層にシフトするために、クリエイティヴの力を活かした告知啓発で広報支援活動をしていきたいと考えているんです。

自分がふつうに付き合っていた近所の誰かとか、子どもの同級生のお母さんとか、そういう人たちが被害に遭っていることを、被害の当事者が声を上げる場を作ることで知ることができれば──それを知らなかったふつうの女性たちが、その声で知ったときにどうリアクションするのか、ということですよね。

──でも、実はDV被害者には「自分にも非がある」という思い込みから、声を上げられない人も少なくないんですよ。

じゃあワークショップがいいよ。なるべく大手の会社に行って、男性社員だけを集めてワークショップするの。ロールプレイとかでDVについての理解を深めてもらう。だってDV被害者が3人に1人いるんだから、男性社員30人の中にも、DV加害者が絶対にヒットするはずでしょ?

やっぱり家庭内コミュニケーションのトレーニングが必要なんだと思う。男が家庭に帰ったときに、自分の息子や娘や妻に対して「オレはこんなに一所懸命に働いて辛い目に遭ってるんだ。ありがたく思え!」というありがちな感覚を、ちょっと切り替えていくこと。そのためには妻も、そんなに働かなくても、ちょっと生活のレベルを落としても「こっちの方が大事」といえる必要があるんだけど……。でも妻は「子どもをいい大学に入れなきゃならないし、いい塾に行かせなきゃならないし、お金がかかるのよ」という悪循環が続いている部分もあるんじゃないかな。

──DVの問題では、行為として加害者には情状酌量の余地はなくて、暴力は100%悪いんだけれども、ただそれを行った人間の人格は完全否定しない、という立ち位置が大切かもしれません。そこでパープルアイズとしての抑止力を考えていくと、ワークショップは有効な手段のひとつになるかもしれませんね。そういう点で、人の言葉を「聞く」意識を持つ入門編みたいなことを、パープルアイズとしては考えていきたいんです。

そうだね。入り口は必要だよね。まずは「家庭円満講座」とか「奥さんとうまくやる講座」みたいなタイトルで、ハードルの低いものを設定して、でもそこから見えてくるものはあると思うから、テストしてみる価値はある。それを続けていくことで、仲間も広がっていく。

──まず安全を確保しなければならないという点は、外すことのできない大切なポイントだけど、それがあるから加害者側へのアプローチに手を付けられなかった部分もある。でも、先ほどの4コマ漫画の例のように、理想の家庭像というイメージの中にある「理想の幻想」が──それを私たちは「ファンタジー」と呼んでいるんですけど、それをいちど崩してみるようなワークショップもいいのかな……と、お話を聞きながら思っていました。もちろん参加する人とはきちんと向き合わなければならないけど、それでもまずトライしてみて、間違いがあれば間違いとしてフィードバックしていく、という方向でやればいいのかな、と思います。

私は企業が、いま日本の中でいちばん非民主的な組織だと思っています。なので、企業の中に入っていって、それを彼らは効率が悪いと考えるかもしれないけれど、メンタルに潜在的な問題を抱えた社員がもたらすダメージに対してリスクマネジメントしていくという心理的なメインテナンスが大事だということを伝えることには意味がある。先ほどの統計に従えば、女性が多い職場にはかなりの数で殴られている社員がいることになるけど、男性社員が優位な環境だと、それは意識されていない。そういった職場に対して男性向け、女性向けそれぞれにワークショップをデザインするのは、企業が「人間的な職場」になるためにも意味がある。それに、ワークショップで資料を配るだけでも、そこにある電話番号が誰かを助けられるかもしれないしね。企業だけじゃなく、大学でも必要かもしれませんね。パワハラとかセクハラとかアカハラとか、いろいろあるもの。

待ってるだけでは、変われないんですよ。いま、社員が自殺したり、痴漢したり、そういうリスクに企業は課題意識を持たなきゃいけないし、そういう意識が高い経営者っていいなあと思うんですよね。だからこそ、受け皿を置いて待ってるだけじゃダメなんです。ニューヨークにいたころ「リスク・リダクション・ワークショップ」というのに関わってました。専門の資格を持ったスタッフがいたりしてね。で、日本の場合は「100をゼロにしよう!」っていうパターンが多いでしょ? でもアルコール依存症の問題だったら、昨日はグラスにいっぱい注いでいた酒を、今日はスプーン1杯だけ減らせばいい。毎日スプーン1杯ずつ減らしていくなら、誰にでも受け入れられるかもしれない。それでも、スプーン1杯のリスクはリダクションされているわけですよ。そういう実行可能な提案と、それでいいんだ、できるんだ──という考え方を、示していけばいいんだと思う。もちろんその人に暴力を振るわせたり、酒に溺れさせたりする、心の奥底にあるものに対しては、それは専門家がしっかりと対峙していかなければならないんだけど、でも「脱出は可能なんだ」というプロセスを提示していくのも大事なんですよ。

──DVの問題は根絶も可能なんだ、という未来もあり得る──ということですよね。

100人に1人が変わるだけでも、すごく変わっているんですよ。だって100人があたりまえのように殴っている現実の中で、たった1人でも「あれ、オレなんで殴ってるんだ」と思ったら、それはスゴいことでしょ? その気付きって、広がっていくんです。

DVは人間回復のプロセス!!誰にでもできる事がある

──ありがとうございました。最後になりますが、新作の『ミツバチの羽音と地球の回転』をこれから観る人のために、監督としてひとことメッセージをお願いします。

この『ミツバチの羽音と地球の回転』というタイトルから、いったいこの映画はなんなんだろうと思われてるんでしょうけど、この映画は日本で電気を使っている「すべての人」に関わる問題を扱っていて──ふだん電気を使って暮らしていながら、それを当たり前だと思っているその先に、いったいどんな現実があって、どんな未来が待っているのか、それを知らないと、変えられない。でもその現実、未来を変えるための情報は、日本のマスメディアも、政府も、電力会社も、ずっと隠し続けて、一切それを伝えていない。その隠され続けた情報をこの映画の中にさらりと入れてあるので──必見です! 頭の中にある壁がガラガラと音を立てて崩れるような快感が味わえます!

ドキュメンタリー映画監督。富山県生まれ。1991年、自主制作監督作品『スエチャおじさん バリ/夢/うつつ』で文化庁芸術家海外派遣助成金を受け、カナダ国立映画製作所へ。ニューヨークでの活動を経て1995年に帰国し、2003年の監督作品『ヒバクシャ──世界の終わりに』で地球環境映像祭アース・ビジョン大賞、文化庁映画賞文化記録映画優秀賞ほか多数の賞を受賞。2006年の『六ヶ所村ラプソディー』では、六ヶ所村核燃料再処理施設の問題を賛成派、反対派、中立派それぞれの住民を表情豊かにとらえて表現し、講演会を併催する自主上映会を中心にして、集まった多くの観客に支持された。

2010年4月に完成した新作『ミツバチの羽音と地球の回転』では、前作『六ヶ所村ラプソディー』で取り上げた原子力産業の問題から「エネルギーの選択」というテーマに踏み込んだ。地球温暖化時代のいま、個人の生活が環境破壊につながるのだ──というジレンマに警鐘を鳴らし、そのヒントをスウェーデンに求めて、山口県上関町で進む原子力発電所建設計画に対して28年間にわたって続いている祝島の反対運動との対比の中で描き出している。
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